コオロギ料理を食べに行こう

JR山手線・高田馬場駅の目と鼻の先にある建屋の奥部。
 そこに件の店は構えられており、店内には独特の雰囲気がある。
 これがシャン族の方には馴染みのある内装なのだろうか。
 手渡されたメニューをめくり探し続けると、お目当ての料理は最後のページに記載されていた。
 ここは『NONG INRAY(ノングインレイ)』。
 私はコオロギを食べるためにやってきた。

 昨今、昆虫食は地球に優しい食べ物だと叫ばれている。
 あの(人間から見て)小さい体にはタンパク質が豊富に含まれており、増え続ける地球人口とそれに伴い深刻化する食糧供給の問題を解決する為の手段として、昆虫食は本格的に採用を考えられているのだ*1
 未来の地球のためだから皆たべよう! ……と格好つけた事を言っても説得力がない。
 何しろ私はまだ食べたことがないのだ。
 いくら口で人類のため、地球のためと旗を振っても己が実践しないのでは話にならない。

 という訳で、昆虫食初心者たる私は、何か食べやすいものから口にしていこう、体験してみようと思い立ったのである。
 しかし、いきなりタランチュラとかムカデとかサソリとかは御免こうむる。いくらなんでもハードルが高すぎるだろう(どれも「昆虫」ではないが、「むし」のカテゴリーには入る)。
 とにかく、こんな輩でも気軽に食べられる方法がないかと探っていたところ、目に入ったのが高田馬場にあるシャン族の料理店『NONG INRAY』であった。
 シャン族とはミャンマー連邦共和国の民族で、高田馬場にはミャンマー出身の方が多く住んでいる*2
 店舗ホームページのメニューには、カウスェという米粉を使ったシャン族の麺料理から、小松菜炒めのように日本人も馴染み深いものに至るまで、多数の料理が掲載されている。
 ここに昆虫食は載っていなかったものの、HPのトップには「メニューはほんの一部です。季節や入荷状況により変わります。」と書かれていて、この店に行った体験が綴られた 複数のブログで、コオロギやセミが食べられるという記述を見た。
 これらの情報を手に入れた私は『NONG INRAY』さんに出向いたという訳だ。

 実際に私が出向いた時にはコオロギ・スズムシがあり、竹蟲やセミはなかった。
 竹蟲はフライドポテトの様な食感だと聞いていたので、ついでに食べたかったが断念。
 今回は「コオロギ炒め 900円」をいただく事にした。
 注文してしばし後、皿に盛られて数匹のコオロギがやって来た。
 写真は最後に掲載する。見た目はやはりコオロギそのものなので下さい苦手な方はご注意を。

 サイズは写真で見るよりもやや大きく感じた。
 日本に生息するコオロギの中で、一番デカいエンマコオロギでも3センチ。しかしこんがりと炒められた彼らは明らかにそれ以上にデカい。
 よくよく見ると、炒めている間に取れてしまうのだろう、後ろ足や頭がない輩もいた。
 箸で摘んでマジマジと眺める。
 当たり前だが、見た目はそのまんまコオロギ。触覚はヘニャヘニャになっていて体にくっついている。
 大きいとはいえ一口で食べられるサイズ。
 意を決して一匹まるごと口の中に放り込むと、想像以上にコオロギの体は脆く奥歯で容易く噛み砕けてしまった。サクサク・パリパリとした食感が歯を通じて伝わる。
 えびせんの様な食感と事前に聞いていたが、個人的には、それ以上に脆い。
 昆虫の体内には骨がない。代わりに外骨格として体表が発達しており、それで体格を維持している。外骨格という堅牢そうな言葉のイメージに反し、サクサクしている。油で炒めたことも関係しているのだろう。佃煮にしたらどんな食感になるのか。
 正直なところ、昆虫食にはエビの尻尾に似た食感を想像していたが全然違う。
 エビの尻尾は噛み砕いた後、破片が歯茎に突き刺さるので私は苦手であった。
 しかしコオロギは違う。硬そうな外見の割に非常に食べやすい。
 味はと言うと、炒めるのに使った油の影響か、ほんのり辛く、舌先に触れるとピリリと感じる。今回はコオロギ炒めを単品で頼んだが、気持ち味が濃い目なので米飯も頼めば良かったと後悔。
 一料理として考えると、メインで何か別のもの、カレーなどのご飯ものや、そばの類を頼み、副菜としてコオロギ炒めを食べるのが良いんでないかと思われる。

 こうしてコオロギ料理の初体験は問題なく終わった。想像していた以上に食べやすかったので、機会を設けてまた来ようかと思う。
 日本人客もよく訪れており、私が訪れた時も数人の客がいた。珍しさも手伝ってかシャン族料理を頼むと同時に昆虫食を頼む方は多いらしい。
 ただ入荷時期によっては食べられないかもしれないので、一度確認をした方が良いかもしれない。

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NONG INRAY ノングインレイ
11:30~23:30(L.O.23:00)
東京都新宿区高田馬場2丁目19−7 TAK11 1F
TEL : 03-5273-5774
http://nong-inlay.com/
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最後にコオロギ炒めの写真をば。

コオロギ炒め

コオロギ炒め